たとえもの

アニメとかラジオとか好きでした。今はふつうです

心が叫びたがっているんだ。 感想

 見に行きました、ひとりで。ひとりぼっちもいいものです。


 なんていうんでしょうか、物凄い個人的なことをいうと理想のアニメでした。いや、理想というか、なんというか。僕が、小説を書いたとき、漫画を描いたとき、ゲームを作るとき、映画を撮ったとき、なんでもいいですが、とにかくきっとこういうことがやりたいんだろうなっていうのが一番の感想です。出来ることならば、なんでもいいからこの作品を創る方に関わりたかったなあ。

 ファンタジー要素もほとんどなく、比較的にこれからどうなるか、というのは予想しやすい作品です。意外なことなどほとんど起こりません。とにかく、人を書こう、キャラクタを書こう、その時の心理描写や風景、動きに面白さを見出す作品。ド派手な演出も動きもありません。ただただ、一般的と思えるようなクラスが、喋らない女の子の一声を機に少しずつ変わり始めていく。周りの人たちの感情を徐々に呼び起していく。言葉が、声が、色々な人に影響していくさまは、まさに心が叫びたがっている描写そのものだったと思います。タイトルに偽りなしですね。

 ここが良かった、あれがよかった、という点を挙げるのは中々難しいです。ところどころに岡田磨里だわこれ(冒頭とかところどころにある下品な表現とか)、という氏特有の脚本もありつつ、重い内容でありながらコミカル交じりに進むストーリーは理想的なものです。キャラクタも主要人物やそれに関わる人もわかりやすく、それでいてそれぞれの持ち味が生かされているなあと思えるところも素晴らしい。脇役もきれいにストーリーに嵌っています。無駄なキャラもいなかったと思います。とにかく飲みこみやすかったです。それゆえ全体としてよかった、とは言えても要所をあげてよかった、というのは中々難しい。

 ただ僕があげるとするならば、終盤の成瀬順の台詞が非常に好きです。ああ、やっぱそう思うよね、僕もそう思う。すげーシリアスなシーンでもあるのにそんなことに共感してしまって思わず笑ってしまいました。あのシーン以上に共感できるところないと思う。いや本当に。ああいうのいるよね、ああいうの。それを容赦なく言い切ってしまうのがとても気持ちが清々しくなりました。言われている方はあんまりだったかもしれないけど。

 あと、ミュージカルもとてもよかったと思います。アニメ的に描かれることなく等身大のものなのに凄く映えていて、最後の曲とか本当によかった。なんというか、着飾っていない綺麗な部分がよかった。やっているキャラも生き生きと満足そうな表情をしているのもいいですね。とても見ていて気持ち良かったです。

 キャラクタとしては圧倒的に成瀬順が良くて、他の主要キャラは生々しいところとかの見え隠れ方が非常に人間味を帯びているせいか好感を持ちにくかったかな、と。それは意図したことだろうから別に悪いことではないし、だからこそ成瀬順のいいところが非常に際立ったのだろうと思っています。ホント、野球部とかクラス内の微妙な雰囲気とか主人公のええかっこしいなところとかあの女とか、もう酷いくらい上手く描写していますね。絶賛するあまり思い出して気分悪くなるくらいです。やめてやめて急によそよそしくなるとかやめて。

 それと、成瀬順を演じる水瀬いのりの演技が非常によかった。この人こんなに上手かったっけ、と感動した。なんていうか、これ以上のはまり役はないのではないか、そんなことも思ってしまうくらいです。喜怒哀楽全て余すことなく、綺麗に表現できていたのでは。吐息ですらも、キャラクタの感情を見事表現していてそういう意味でも非常に感動しました。他の人はわりかしいつも通りだなあと思った分、より顕著に良さが出てたかも。そういう意味では、成瀬順を好きになれるかどうかで作品自体の評価も一変しそうですね。

 作品として良いか悪いかなんて僕には判断の出来ることではないでしょうが、面白いことは間違いないと思います。あの花のようなドストレートな泣ける感動作品、ということではないですが、ああ高校生に戻ってこんなことをしたかったな、ああしたかった、そんな懐かしい気分にもなるかもしれません。

 等身大の悩める少年少女の話を見たいと思う人には是非お勧めな作品でした。